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地域の家づくり“はたらく家”

地域の家

今から少し前までは、ごく普通にそれぞれの土地でその土地に合った家づくりが行なわれて来ました。

その土地には、その土地の気候・風土があり、その気候・風土にあった家づくりが地元の人たちの手で、地元に有る木や石や土などの材料を使い行なわれてきました。工夫をこらし長い時間をかけ繰り返し行なわれることで土地に合った家がつくられてきました。

暑さの厳しい所には、涼しく暮らす工夫があり、涼しく暮らすための家の形があります。

寒さの厳しい所には、暖かく暮らす工夫があり、暖かく暮らすための家の形があります。

また、雨の多い所には、雨をしのぐ工夫や形があり、雪の多い所には、雪をしのぐ工夫や形があります。

それぞれの風土に合った工夫や形が、暮らしの中で長い時間をかけて育ってきたのです。

そうして出来た工夫や形には、それ自体が機能を持っていて家の内部空間や外部の環境に働きかけます。

屋根の形や納まりの工夫には、その特徴が良く現れます。その地域に合った形や工夫で出来た家は、私たちに働きかけてくれる“はたらく家”になります。

地域の民家に学ぶ

八ヶ岳西麓の山浦と呼ばれる地域には、"せいがい造り"(せいげぇ)と言われる軒の長さが6尺(1.8m)以上もある深い軒の民家がたくさん有ります。深い軒は、夏の日差しを遮り、雨や雪を家から遠ざけてくれます。深い軒下はそこで暮らす人の作業空間であり、農作物を乾燥させたり、作物や農具の一時置場として使われてきました。これも生活と共に発展して来た暮らしの工夫です。

こうした家が山浦に多く残ったのは、深い軒が建物を守り寿命を長くしたことと大きく関係しています。

はたらく庭

暑い夏の日、木陰に入ると涼しいゆったりとした風を感じることが出来ます。これは、木が木葉で木陰をつくり太陽の熱を遮ってくれるのと、木にはその廻りの空気を冷やし空気に流れをおこす機能が備わっているからです。木は根から水分を吸い上げ、幹から枝を通り葉から蒸散させます。水分が蒸発する時に廻りから熱を奪い温度を下げます。湿り気をもった空気(水蒸気)は、軽いので上に向う気流が出来でき穏やかな風の流れが起こります。この蒸散作用による効果を家の廻りでつくり、涼しい空気を家の中に導いてやれば良いのです。このような建物の廻りの狭いエリアでつくられている気候のことを微気候と言います。

心地よい微気候をつくるのに欠かせないのが緑(樹木)の庭です。家の北と南にまとまった緑があればより効果的になります。敷地にあまり余裕がなくても空きが90cmあれば夏の日差しを遮ることが出来ます。落葉樹を植えれば夏の日差しを遮り・冬は日差しを通すブラインドみたいな働きもします。出来ることならお隣さんと一緒に家の廻りの環境(微気候)づくりをすればより効果適です。家の廻りの環境 "家の庭"は、私たちに働きかけてくれる“はたらく庭”なんです。

八ヶ岳西麓の山浦地域には、お蔵の西側や東側にお蔵の恰好をした生垣が見られます。この生垣も木陰をつくり蒸散作用でお蔵の廻りの温度を下げ、内部の温度変化を少なくするのに役立っています。機能を持った生きた外壁みたいなものです。

地産地匠

私たちの地域にある森林で利用出来る林のほとんどが「から松や赤松」です。残念ですが多くの森林資源を持っていながらそのほとんどが使われていないのが現状です。最近間伐をする林を見かけますが切りっぱなしの所が多いようです。地域の森林資源である「から松や赤松」を建築材料としてどのように使って行くかがこの地域の課題だと思います。カラ松は色見がよく粘り強い、松は木目の美しさや加工のしやすさが魅力の木です。こうした地域の材料を使って家をつくることは大切なことです。そして地域の材料を扱う職人さん、職人さんが伝えてきた技術もその地域にとってとても大切なものです。

以前はごく普通に見られた鉄平石の屋根も今では数を減らし、新しく葺き替えられる鉄平石の屋根はほとんど見られなくなりました。残念な事です。

これからも地域に伝わってきた技術に新たな工夫を加え家づくりをして行きたいと考えています。